馬越康彦の日記

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生理的錯誤『時間は十分か』

若い頃は「何か」という問いかけ主(宇宙真理とかブラフマン)の実体がわからぬまま、突き動かされ、読書に耽溺したり、スポーツに熱中したりする。若い頃に持っていたあの有り余る時間の意味は老いを迎えてもなお判然としない。
体が動かなくなったり、頭が働かなくなって始めてあの熱中の意味は分かるが、依然として熱中した結果のもつ(はずの)意味は不明である。夢中になって読書した、夢中になってスポーツに打ち込んだ、その結果は何であるのか?かつて読んだ本はマーカーもひかれてすべて本棚に収まっているし、表彰状やメダルは部屋に飾られている。後継者もいる。
でもなぜかよそよそしく、なぜかむなしい。
生理的調和とは生物すべての一時期の特徴(特権)である。まるでなにも乱れていないことが当たり前のように、若い頃は時の経過がゆったりしていて、「時間よ、早く過ぎ去ってくれ」と云わんばかりに難事の対処を時の経過に委ねていた。時間は有り余っているように見えた。
やがて結婚し子育てをするが、それはあの若い頃持っていた熱い血を「息子・娘」の中に見出し安心しようとし、人生とは何かという問題の根本解決(謎解き)を先延ばししただけのことにすぎない。生物は皆自分一人では完結できないので、子孫を残し、世代交代を重ねていく。このようにすべてが繰り返されること(輪廻転生)の理由の大半は、人間は生きている間にこの輪廻転生の謎を解き解脱することができないということ、つまり人の一生は謎解きの持ち越しでしかないということに尽きる。すべては老い、すべては病を得て、すべては死んでいく。そして再び母胎を経て六道のいずれかに生じる。
この移りさすらう諸相をブラフマンの真理として認識できるのは人間だけであり、解脱した代表は仏陀である。
諸々のよこしまな見解にとらわれず、戒めを保ち、見るはたらきを具えて、諸々の欲望に関する貪りを除いた人は、決して再び母胎に宿ることがないであろう。(ブッダのことば「慈しみ」より)
解脱できるのは人間である間だけである。天人として天上界に生まれれば、苦しみのなさに六道を忘れ、地獄に落ちれば、時の経過は無限に近く、苦しみより逃れることですべてが占められ、解脱どころの騒ぎではない。さあ、人間としての皆さんの時間は十分か?
悪人は悪事をなすにできるだけ多くの力を頼りにする。子女をつくり、犬を飼い、笑いで満たされ、多くの者が集うように働きかける。
ひとが、田畑・宅地・黄金・牛馬・奴婢・傭人・婦女・親族、その他いろいろの欲望を貪り求めると、無力のように見えるもの(諸々の煩悩)がかれにうち勝ち、危い災難がかれをふみにじる。それ故に苦しみがかれにつき従う。あたかも壊れた舟に水が侵入するように。
欲求にもとづいて生存の快楽にとらわれている人々は、解脱しがたい。他人が解脱させてくれるのではないからである。かれらは未来をも過去をも顧慮しながら、これらの(目の前の)欲望または過去の欲望を貪る。
かれらは欲望を貪り、熱中し、溺れて、吝嗇で、不正になずんでいるが、(死時には)苦しみにおそわれて悲嘆する、――「ここで死んでから、われらはどうなるのだろうか」と
『これは(わたしの)最後の生存であり、もはや再び生を亨けることはない』ということを、この世で如実に知っている人々がいる。
(師(ブッダ)は語った)、「われは(昔さとりを開こうとした時に)、愛執と嫌悪と貪欲(という三人の魔女)を見ても、かれらと婬欲の交わりをしたいという欲望さえも起こらなかった。糞尿に満ちたこの(女が)そもそも何ものなのだろう。わたくしはそれに足でさえも触れたくないのだ。」
(俗事から)離れて独り居ることを学べ。これは諸々の聖者にとって最上のことがらである。(しかし)これだけで『自分が最上の者だ』と考えてはならない。――かれは安らぎ(ニルヴァーナ)に近づいているのだが。
世界はどこも堅実ではない。どの方角でもすべて動揺している。わたくしは自分のよるべき住所を求めたのであるが、すでに(死や苦しみなどに)とりつかれていないところを見つけなかった。
わたしは、知らねばならぬことをすでに知り、修むべきことをすでに修め、断つべきことをすでに断ってしまった。それ故に、わたしは〈さとった人〉(ブッダ)である。バラモンよ。
わたしに対する疑惑をなくせよ。バラモンよ。わたしを信ぜよ。もろもろの〈さとりを開いた人〉に、しばしばまみえることは、いともむずかしい。
かれら〈さとりを開いた人々〉が、しばしば世に出現することは、そなたらにとって、いとも得がたいことであるが、わたしは、その〈さとった人〉なのである。バラモンよ、わたしは(煩悩の)矢を抜き去る最上の人である。
わたしは神聖な者であり、無比であり、悪魔の軍勢を撃破し、あらゆる敵を降伏させて、なにものをも恐れることなしに喜ぶ。